病気になって、変容する~「Whole Brain, 心が軽くなる『脳』の動かし方」を読んで~

神経解剖学者のジル・ボルト・テイラー博士の著書「Whole Brain, 心が軽くなる『脳』の動かし方」(NHK出版)を読みました。

 

テイラー博士は、脳出血により左脳の機能をすべて失った後、8年のリハビリを経て脳機能を回復させた体験を語ったTEDトークで有名になった方です。

 

リハビリ中に、右脳だけで世の中を認識する時期を経た経験から、左脳(思考)優位の価値観で生きる私たちに、右脳による認知の大切さと、脳全体を使って生きることの大切さを説いていらっしゃいます。

 

著書では、右脳と左脳という従来の2分類を超え、それぞれの思考的認知と感情的認知の4つの人格が私たちには存在するという考え方が展開されています。

 

この4つの人格がバランスよく協調するとき人は自分とも周りとも友好的な関係を築き、物事にうまく対処できることができるとまとめられています。

 

4つの人格の特徴をテイラー氏が実にわかりやすく説明しており、特に左脳を使う科学者というバックグラウンドと、左脳の機能を失った経験から、世界が右脳からどのように見えるのかを系統立てて説明した内容が、とても斬新で説得力がありました。

 

私は乳がんの放射線治療中に読み始めたため、病気や治療への受け止め方の変化のプロセス、具体的には、最終的に自分が病気であること、治療を受けることを全面的に受け入れるようになった流れを客観的に理解することができました。

 

本日は、テイラー氏が説く4つの人格についてまとめ、自分の気づきと共にご紹介いたします。

 

従来から言われている右脳と左脳の機能の違いは以下の通りです。

  • 左脳は、細部に注目し、区別する。情報を順序だてて過去の情報と照らし合わせて処理する。全体から分離した個の意識、自己批判、不安、外部の状況に依存した幸せ、などがキーワードです。
  • 右脳は、つながりを感じる。現在の経験を即座に処理する。無意識、全体とのつながり、至福感、生きていることへの喜び、などがキーワードです。

テイラー博士は、大脳皮質の思考中枢と大脳辺縁系の情動中枢に対応する、脳の左右2カ所の細胞群4つが、物事に対して全く異なる反応・処理を行うという説を唱えています。

 

左右とも感情を司る情動中枢の上に思考中枢があるという構造で、感情に関わる低次の細胞の次に、高次の思考中枢が情報を処理します。

 

そのため、人間にとって感じること・感情は欠かすことのできない大切なものであり、人間が、考えることもできる「感じる生き物」であることを著者は強調しています。

 

言い換えると、自分が感じていることから目を背けて感情を否定すると、左脳のストレス反応が悪化して最も根本的なレベルで健康を損なう恐れがあると述べられています。

 

世の中で評価されやすい左脳=思考、社会的側面に基づく人格だけでなく、4つの人格全てを大切に受け入れ育み、多面的な自分を大事にすることが重要だということです。

 

さて、先に述べた通り、4つの細胞群はそれぞれが正反対の処理方法をするため、1人の中で生み出される各人格(キャラ)が葛藤を起こしやすいのです。

 

左脳の<考えるキャラ1>と<感じるキャラ2>右脳の<感じるキャラ3>と<考えるキャラ4>、この4つの人格は、カール・ユングが唱える無意識の主な4つの元型(人類に共通の「集合的無意識」から発生する普遍的なパターン)と符合していると考えられています。

  • 左脳の<考えるキャラ1>:ペルソナ(社会の中で他人に見せる仮面のような自己イメージ、エゴ)
  • 左脳の<感じるキャラ2>:シャドウ(他人に見せたくない否定的な自己イメージ)
  • 右脳の<考えるキャラ3>:アニムス(女性の中の男性的要素)/アニマ(男性の中の女性的要素)=両性具有
  • 右脳の<考えるキャラ4>:真の自己(心の一番深層にある、意識と無意識が一体化した部分)

 

以下、各人格(キャラ)の概要をまとめます。

 

左脳の<考えるキャラ1>:善悪にこだわる、厳格な性格で、社会の秩序を作るために欠かせない人格です。自分らしさ、自分の能力を形作るもので、社会は主にこの部分に焦点を当てて、人を評価しています。

 

 

左脳の<感じるキャラ2>:成熟することがない脳の原始的な部分で、パターン化された古い反応を起こします。

 

過去の経験と照らし合わせて安全か安全でないかを判断し、起こりうる最悪の結果を想定して危険を排除し自分を守ります。

 

危険と判断すると「戦うか逃げるか」の緊急事態になり、脳は冷静に考えることができなくなります。

 

同時に、以下のようなネガティブな感情が沸き上がります:

 

不安、嫉妬、怒り、自己嫌悪、罪悪感、羞恥心、孤独感、不満、欠乏感、恨み、絶望感、心配、批判、被害者意識

 

愛されたい気持ち、見捨てられることへの痛みと恐れが核心にあり、これらの感情的な苦痛は、鬱積すると身体的な病として表れてしまうほどのパワーがあります。

 

しかし、感情は人生を彩るために不可欠なものでもあり、ネガティブな感情を受け止めることで限界を超えて成長する可能性を生み出します。

 

 

これに対して右脳から認識する世界は、危機感のない安らかな世界であり、自分と他人との区別、自分自身のアイデンティティがない状態です。

 

 

右脳の<考えるキャラ3>:過去の後悔も、現在の恐れも、未来への期待もなく、今この瞬間に集中しています。

 

喜び、創造性、多様性、共感、遊び心、好奇心にあふれ、流れの中にいます。周りとのつながりを感じ、経験することを楽しみます。

 

キャラ3につながるには、肌触り、景色、匂いなど周囲の直接的な感覚に注意を向けることが大事です。

 

 

右脳の<考えるキャラ4>:生命(細胞)が持つ意識で宇宙の愛、高次の力につながっています。常に安全で、安らぎ、豊かさで満たされた状態です。

 

すべてが完璧であるべき姿であるという全知全能の意識は、惑星や動植物、あらゆるものを形作る原子・分子レベルのエネルギーと同一であり、このエネルギーによって生物の細胞は分裂して成長します。

 

このレベルではあらゆる物質は区分けがなく、常に動き、影響を及ぼしあっているため、人間には、エネルギーの流れを意図的に変え、望むものを引き寄せることができる力を持っていると考えられます。

 

キャラ4につながるには、呼吸に集中して現在の瞬間に意識を広げ、深い感謝の気持ちを全身で感じることや、瞑想や祈りにより宇宙との一体感を感じることが有効です。

 

すべてに心を開き、あるがままの状態、変化することを受け入れることによって、宇宙の力を信頼し、大局的な視点を持つことができます。

 

 

ここからは、私の経験に基づく気づきを記します。

 

上記でまとめた4つの人格のうち、左脳の<感じるキャラ2>右脳の<考えるキャラ4>の説明が印象的でした。

 

というのも、一般的に右脳=感情、左脳=思考と考えがちですが、実は左脳にも感じる部分、右脳にも考える部分があることを知ったからです。

 

左脳の<感じるキャラ2>については、私たちが日々隠しがちなネガティブな部分ともいえる感情を受け入れることが、健康で幸せに生きるためにとても重要であることを知りました。

 

特に、これらの感情を抑圧することが病気を引き起こすほどのパワーになり得るという説明が、私が乳がんになった根本原因について考察した気づきと一致することに驚きました。

 

また、左脳の<感じるキャラ2>が人とのトラブルを招く元になると書かれていて、2年前にパワハラを受けて悔しい思いをした経験を思い出しました。

 

今振り返ると、普段自分が左脳の<考えるキャラ1>に象徴される社会的な側面ばかりを大事にしてきたからこそ、自分にも抑圧した左脳の<感じるキャラ2>がいることを実感させるためにこのような出来事が起きたのではないかと思いました。

 

右脳の<考えるキャラ4>については、脳細胞を研究する著者が、宇宙の意識につながるこの部分が細胞の成長に深く関わっているという説明をしていることが、とても新鮮に感じられました。

 

そして、私が放射線治療を受けている間に瞑想をして、意識を広げていったことが、この治療を乗り越え回復に向かうためによかったということを改めて実感することになりました。

 

 

 

 

著者の言葉を引用します。

 

「癒しのために宇宙の意識とチームを組むことを選べば、驚くべき回復が起こります。私の脳を見てください。左脳のキャラの力でオンラインに戻ったのではなく、宇宙の力が私の<キャラ4>の意識と協力して、私の細胞を復活させたのです。」

 

「細胞には私たちを癒す力があると信じています。もちろん、緊急時には伝統的な医療が大事ですが、自分の治癒力を少しでも信じることで、私たちの細胞のあいだに尊敬に満ちた健全なチーム・スピリットが生まれると思います。五十兆個の天才的な細胞の集合体である私たちは、<キャラ4>という共通の意識をもっています。宇宙の意識と、私たちの細胞によって形成された<キャラ4>の力とを合わせて活用するとき、私たちは癒されるのです。」

 

最後に、病気との向き合い方について4つの人格がどのように対処するかの説が印象的でした。

 

まとめると、左脳の<感じるキャラ2>右脳の<考えるキャラ4>では以下のような違いがあります。

  • キャラ2:医療の世界は悪いことばかりだと考えている。恐怖と不安が先行して、何をすべきか明確に考えることができないため、できる限り問題がなかったことにするか、避ける理由を探し始める。
  • キャラ4:病気も挑戦しがいのある経験ととらえ、暗雲の向こうに青空があると、感謝の気持ちを抱く。

 

今振り返ると、私は診断を受けてから治療を受けることを決断するまでキャラ2の状態に長くいて、最後の最後でキャラ4の心境に到達したように感じています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

テイラー博士も書いているように、健康な時にはキャラ2の人格が優位ではなくても、ひとたび病気になると、恐怖心からキャラ2のネガティブな状態に陥ってしまう人が多いそうです。

 

病気になること=「危険」と感じた時にキャラ2の自動警報装置が発動してしまうことは自分の経験からもわかります。

 

けれども、病気になることによって、健康な時には想像しなかった境地=「変容」に至る可能性があることも確かです。

 

病気になることは悪いことばかりではないと受け入れられるようになるまでには時間が必要なことも多いですが、当サロンでご提供するセラピーが少しでもお役に立ててれば幸いです。